くもり空の形而上学

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【観劇】 東京フェスティバル 「無心」 【感想】

こんばんは。吹雪です。

10月27日、下北沢にある小劇場B1へ足をはこび、東京フェスティバルのお芝居「無心」を観てきました。AKBのメンバーである小嶋菜月さんも出ていたり、事前情報では豪華さが印象的でしたが、劇は誠実度&完成度が非常に高い、よく考えられたものでした。

いやあ、素晴らしかった。以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

青空も青い海もないけど、東京に沖縄がやってくるという触れ込みの通りで、「リアルな沖縄」を感じさせてくれるものでした。

簡単にあらすじを紹介すると、テント村にいる基地反対派のリーダーの娘がアメリカ兵と恋に落ちたため、リーダーを続けられず辞退しようとするが、テント村の参加者にもいろいろな事情があって反対運動を続けられそうにないということがわかり、テントが撤去される通達の絶望感の中、東京から来たトリックスタークラウドファウンディング成功させ、登場人物の一人の問題を解決し、皆は反対運動を続ける力を取り戻すというストーリー。

 

大げさな台詞回しやわざとらしさがなく、自然なはこびで劇が始まりました。

あまりの身近さに、思わず劇に入り込み、「土地を売っちゃダメだよ!」など言いそうになりました。客から参加することがあっても良さそうな劇だとさえ感じました。

 

自然な雰囲気だからこそ立ち現れた沖縄ですが、単に現実に写し紙をあてただけでなく、各人物に抽象的な役割も付与されています。長くなりますので登場人物については、またの楽しみにし、この作品の核心部と感じたことをお伝えしたいと思います。

 

確かに、この現実には、沖縄に基地があり、日米地位協定があり、戦争の可能性もあります。

そしてなにより、硬直しがちな現実とそこに暮らす人がいて、対立があり、理解しあえない障壁があります。

基地容認派を「無心」していると責められる人がいるし、戦争の恐怖を拭い去れず、またプライドと誇りを守るために「無心」な人もいる。

基地のお金がなければやっていけない事情がある一方で、プライドがずたずたにされ、人間性を回復したいピュアネスがある。

 

 

この「無心」の二重性の間でどうしても対立が生まれ、にらみ合って硬直する。

この固まってしまった現実をどうにかしてして揺るがしたいと願ったのが、今回の作品でした。

政策や農業方針、航空整備などのことが希望を持って語られますが、それが最大の希望ではありません。

 

ねだる「無心」と、純粋さを意味する「無心」。この二つの「無心」に、最後の最後に、大きな意味がほんの一滴たらされて、対立していた現実がパッと鮮やかに統合されます。

この「統合の可能性」そのものを示したことが、大きな希望なのです。

 

この統合を可能にしたのが、「trick or treat」というセリフです。

 

こ存じの通り、「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ」という意味です。

これが、まさに「物乞い」と「純粋さ」を統合しつつ、現実を変えるための交渉力をも示してもいるのです。(イタズラで解決できるという意味ではありません)

 

劇中では、これまでは考えもしなかった解決方法として、クラウドファウンディングで問題を解決しました。「トリック」の確かさが印象付けられ「trick or treat」というセリフが最後に与えられることで、今とは違う方法で歩み寄ることが出来ないか、解決することが出来ないかを、登場人物だけだけでなく、観客も巻き込んで思考を作動させる力を作り出していました。

 

ハロウィンが定着してきた現在、アメリカ化してきたと嘆きたくなる気持ちもわからなくはないですが、「Give me chocolate」から、「Trick or treat」と言えるようになった変化は大きなものではないでしょうか。

 

ハロウィンの定着が示していることは、我々が常に新しい可能性へ向かって歩んでいることです。この新たな一歩を想起させようと、ハロウィンの時期に合わせた「trick or treat」には、沖縄を見て歩いた作者の願いがぎゅうぎゅうにつめ込まれているでしょう。大変な力量だと感動した次第です。

 

概念の創造、新たな哲学がありました。

 

DVDも発売されるようですので、気になった方はごらんになってください。

 

おやすみなさい、吹雪でした。