くもり空の形而上学

ジャパンカルチャーや茶道、日常のことなど雑多に書きます

『ふわふわの泉』は最高の小説のひとつ

こんばんは。Fデス。

 

皆さんは、サマセット・モームの、『世界の十大小説』をご覧になったことがありますか。岩波文庫だと、これだけで上下巻に分かれており、それだけでも読むのは大変です。この本を読んださきに、さらに10作品も読むなんて、それはまあ、気が遠くなりますよね。

 

でも、うぶな青年だった私は、がんばって全部読みましたよ。もちろん、『戦争と平和』も『デイビット・コパフィールド』も『白鯨』も。ぜんぶ。ちなみに、それだけでなく、『アラビアンナイト』『西遊記』『紅楼夢』『イリアス』『ファウスト』などなど、岩波文庫の赤は、当時、ぜんぶ読むぞと気合を入れて、手に入るものうち、がんばって半分は読みましたよ。青春です。

 

長い読書人生の中でも、歯並びが変わるんじゃないかっていうほど、歯を食いしばって読んだ本は、ヘーゲルの『精神現象学』と、メルヴィルの『白鯨』なんですが、まあ〜、『戦争と平和』も、生まれて初めて読書ノートつけるぐらい、難しかったです。

なのに、モームの10本の選定基準が、「小説は楽しくね!(キャピッ)」ということらしいので、隔世の感です。『白鯨』面白かったの……? まじで……?

 

モームが選んだ中では、『カラマーゾフの兄弟』が、熱中して読めました。ま〜、ドストエフスキー大好きですという補正もあります。ちなみに、私なら『戦争と平和』の代わりに、『アンナ・カレーニナ』か『復活』を入れます。

 

さて何が言いたいかというと、ランキングって、つまりは、何かをガイドするときに、不思議とマウンティングが行われていて、お勧めしやしく便利なわけです。だって、『白鯨』読んじゃうくらいだもん。

 

で、今回、できたらランキング力にあやかりたいなと。

 

わかってますよ。私がお勧めする十大小説なんて、誰も興味がないと思いますが、開き直って、選びたいんです。そのための前置きなんだから!

 

さて、選ぶとなると、ドスト氏の『罪と罰』、川端康成の『山の音』と並んで、野尻抱介の『ふわふわの泉』が入るんです。

 

この本の素晴らしいところを、簡単にまとめますので、グッときた方は、ぜひ読んでください。

 

ふわふわの泉

ふわふわの泉

 

 

ニコニコ動画もなくジェンダーバイアスも強かった時代に、理系女子高生が、「ふわふわ生きたい」「無駄な努力はしたくない」と、主張し、物語の根幹にできたこと

 

9・11のあの時代に先駆けて、「異世界との出会い」を問題意識にしていたこと

③重力を振り切る描写の、あまりの美しさ

 

そして、何より、人類がもつ普遍的な不安への回答が、冷たく輝く大気を切り裂いて、飛び出た宇宙からもたらされた、その光景、なんです。

 

この本については、地球外生命体との出会いが不要ではという批判もあるのですが、それは局所的な解釈だと思います。野尻氏は一貫した、「宇宙に人類の問題を持っていって考える」ために、「他者」との出会いを必要としたのです。

 

野尻氏は、ストーリーテラーであると同時に、氏が見つけた「真理」を作品の中心に据えます。その「真理」が、分かりやすいのですが、非常に哲学的なんですよね。ネタばれしたくないので、あまり言えないのですが。

 

皆さんも、『ふわふわの泉』の主人公が、最後、なぜ心から笑ったのか、そして人類の希望は、何に立脚しているのか、考えていただければ幸いです。

 

読みやすく、奥が深い名作であること、間違いありません。お勧めします。