くもり空の形而上学

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『脳に刻まれたモラルの起源』 金井良太

脳に刻まれたモラルの起源――人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー)

脳に刻まれたモラルの起源――人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー)

 

 社会心理学では、倫理観を記述する概念として次の5つの道徳感情が根幹をなしていると提案されている。
「傷つけないこと」「公平性」「内集団への忠誠」「権威への敬意」「神聖さ・純粋さ」

これらは「根源的な倫理観の要素」(モラルファンデーション)と呼ばれている。我々の倫理的規範はこの5つの倫理基盤に帰属すると、米国バージニア大学のジョナサン・ハイトを中心とした社会心理学者たちが提唱してきた。(21ページ)

 

現代の政治心理学の発展において中心的な役割をはたしてきたのは、ニューヨーク大学のジョン・ジョスト。

 

保守的な人が持つ恐怖に対する鋭敏な感覚は、視覚のレベルでも知られている。……政治的にリベラルな人と保守の人が、他人の顔をどのように認知しているかを調べた研究では、保守的な人は同じ顔を見ていても、その人が「脅威である」と感じる度合いが強いようである。(32ページ)

 

この政治的信条の脳研究は、政治的信条という一見高次な理性に基づく信念だと思われていたものが、もしかすると脳の構造という生物的な特徴にその基盤があることを示唆する。

……

「三つ子の魂百まで」を地で行く例なのだが、三歳時点の性格から、二〇年後の政治的性向が予測できるという研究結果が発表されている。……リベラルな大人になる子どもたちは、三歳のときすでに問題に直面した時に乗り越える能力を発揮し、自発的で表現豊かで、独立心が強いという特徴があった。一方、保守的な大人になる子どもたちは、不確かな状況に置かれると居心地悪く感じ、罪の意識を感じやすく、怖い思いをすると固まってしまうような子供だった。(39ページ)

 

オキシトシンを吸入することで、他社の気持ちを表情から読み取るという共感力も一時的に向上させることができる。(48ページ)

オキシトシンには嫉妬心を高めたり、他人の失敗を見て喜んだりするようになるという報告もある。(49ページ)

オキシトシンを吸入した後は他人を信頼しやすくなり、投資ゲームでも投資行動の上昇がみられた。

 

実のところ、このような薬など使わなくても、人間には自然にオキシトシンをださせることができる。ハグ(抱擁)などのように、体の接触があれば、人間あh自然とオキシトシンを放出する。(51ページ)

 

石黒浩氏の開発している「テレノイド」や「ハグビー」といった遠隔コミュニケーションメディアでは、対話している相手との身体的接触に近い感覚を作り出せる。(54ページ)

 

この公共財ゲームを見ると、人間にはもともと信頼や共感が備わっているから、自発的に協力し合い、すべてがうまくいくのではないかという予想がみごとに外れる。公共財ゲームの参加者たちは、フリーライダーがいるために、他人と協力することをやめてしまう。

チューリッヒ大学のエルンスト・フェールらが行った研究では、このようなフリーライダーの行動を制するために、罰を与える制度の意義を実験により示した。(69ページ)

 

ゴシップの存在には、個人の利己的な非社会行動を抑制する働きがある。倫理的にやましいことを画策していても、それが世間に知れてしまってhあ問題になるという心理が働くことによって、思いとどまることがある。……アダム・スミスは「人間は経済的利益よりも、よい評判を求めている」と書いている。(76ページ)

 

人は、他人に見られているときと見られていないときで行動が違う。これを心理学では「観客効果」という。(77ページ)

 

イギリスで行われた実験。紅茶を飲んだら自主的にお金を寄付する制度になっていた。そこに、花と目のポスターを交互に貼るようにした。そうすると、花よりも目のポスターを貼った時の方が寄付が多かった。

 

ベンサム自身は、功利というものをお金というよりは、心理的な快楽や苦痛を除くという観点から考えていた。実際に『立法と道徳の原理序説』の中では、快楽と苦痛の心理的状況をリストアップしている。そのような主観的感覚としての快楽を最大西、苦痛を最小にすることを善だと考えたわけである。だから功利(Utility)というのは、そもそも金銭的な利益だけではなく、心理的な主観的感覚のことだったのである。(84ページ)

 

オックスフォード大学のラシュワースらの研究。

このサルの研究により、大きな社会集団の中で生活しているサルほど、社会性と関わる脳の部位が大きく発達するということが確認された。

……

さらに興味深いことに、この前頭前野の大きさは、サルのオス同士の上下関係とも相関していた。つまり、この部位が持つ社会性の脳機能が、サルが社会の中で成功し上位の立場を獲得するのに役立つようなのである。(94ページ)

 

孤独感は遺伝するということが、行動遺伝学の双子研究により示されている。(98ページ)

 

幸福には、二つの側面がある。一つは、感覚的な快楽のことで、<ヘドニア>という。それとは別に、自己実現の喜びや生きる意味を感じることでえられる幸せもある。これは<エウダイモニア>と呼ばれる。(101ページ)