『フェイダーリンクの鯨』 野尻抱介
ネタバレも含みますので気をつけてください。
野尻抱介さんの『フェイダーリンクの鯨』を読みました。
すっごく面白かったんです。木星型惑星のリングが雪玉でできていて、その雪玉を投げて移動したり、ひし形のような虹が見えたり、とにかく目の前に見えるような文章で、美しい。
読書ができる体験ってなんだろうと思うことは少なくないのですが、「圧倒的な美的体験」も読書が提供できる経験ではないでしょうか。
野尻さんとサイゼリヤに行った時に、「小説は脳の力をフル活用しているから、逆にリアルな体験なんです」とお話されていました。
読書をすることで、過去の体験が総動員され、新しい経験に再構築されるのでしょう。だからこそ、うまく読書体験がハマれば、その人にとってかけがえのないリアリティを持つんだろうな、と思いました。
そんなわけで、読書にしか提供できない経験は、はるか宇宙やはるか未来のことについて、(過去でもいいんだけど)、リアルな体験をさせてくれることなんだろうな、と思いました。
野尻さんの小説は、社会に対する鋭い洞察があって、本当に好きです。
『フェイダーリンクの鯨』は、最後、生物が生きていく知恵も、人間が木星型惑星に火を付ける知恵も、等しく価値があるからこそ、彼ら生物の姿に圧倒されるのだ、ということが書かれます。
本当に珠玉の文章です。
多くの人に野尻抱介の文章を読んでいただきたいです。