くもり空の形而上学

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【読書感想】 一〇五度 佐藤まどか  

2018年初夏追記

最近、読書感想文を考えるために、このエントリーを読んでくださる方が少なくないようです。この過疎ブログをご覧になるくらいですから、感想を書けなくて困っている方ではないでしょうか。

コツというか、伝えたいことがあります。

 

『一〇五度』は、子供たちにどのように生きてほしいか、著者の願いがたくさん込められています。だから、感想を簡単に言葉にできない人こそ、必ず、心の中に何かをたくさん感じ取っているはずです。

せっかく素晴らしい読書体験をプレゼントしてもらったのだから、やっぱり、自分の言葉で、自分の心と頭で、考えて書いてみましょう。

 

書くことがまとまらなければ、そのまま、「書きたいことがまとまらない」、と書きましょう。それで、なぜまとまらないのか、どの部分が気になっているのか、自分の心を描写してみましょう。思うがままに書きましょう。文章の稚拙さなど考えずに、あなたの心の状態を、そのまま書けば良いと思います。

 

本の感想がなく、今夜のご飯のことばかり考えているのだとしたら、それをそのまま書いて、なぜ本の感想を考えないのか、まとめてみましょう。

自分の心の声に耳を傾ける時間は、とても大切です。

優れた感想文を大人は欲しがっている訳ではありません。どれだけ自分を見つめられるか、それを期待しているのだと思います。

 

 こんばんは。吹雪です。

あすなろ書房さんから出版されている佐藤まどかさんの『一〇五度』を読みました。

 

一〇五度

一〇五度

 

 

この本、とっても青春していて面白かったです。

ごく簡単にネタバレしない程度にあらすじを紹介すると、椅子に特別な愛着を持つ主人公が、学生デザインコンペにモックアップを作って応募する、というストーリーです。随所に気の利いたアイデアがちりばめられており、リアリズムもあり、また精密な登場人物の心理描写もありで、大変素晴らしいヤングアダルト文学でした。

友達と目標を共有して濃密な時間を過ごすことができるのは、アガる設定です。そういう青春って、楽しそうですよね。しかも、部活の大会とかではなく、自分の興味から発した目標なのだから、なお自由で大人っぽくて、やりがいも感じられて、羨ましいなと思いました。そういえば、僕は高校生の時に中原中也賞が欲しくて、詩の出版をどこかでしてくれないかとあちこち応募していましたっけ。

 

僕のことはさておき、「耳をすませば」的な背伸びした学生っていいですね。このように大人の世界に切り込んでいく若者の成長ストーリーをもっと読みたいなと思いました。

 

読後感として不満はないのですが、こんな展開もアリでは、という気持ちも湧きましたので、いくつか備忘録がてら感想を書きます。

 

父親が、今や絶滅危惧種と思われるほどに「地震雷火事親父」のド迫力。主人公を殴って2メートル吹き飛ばし、主人公は恐怖から逆らえなくなるエピソードが出てきます。

 

この父親、読んでいて腹が立ってくるほど、頑固で、たくましくて、越えられない壁で、圧倒的に物分かりが悪くて(子供目線)、自分の考えを押し付けてくる。

こんな親って、今、いますかね……? 古い親父イメージと思う反面、ぶっちゃけ、ああ、こういう父親はやっぱりいい親だし立派だわ、と思うのですよ。

とはいえ、父親は実は完璧ではなく、主人公の弟への対応は疑問しかない対応なので(弟を病弱だからと努力させない)、賢い親が厳しいふりをしているだけとは思えないのですが……(著者は父親との間に何かあったのでしょうか)。

この父親との対立が物語の推進力になっていますが、実際には、父親ではなく、周囲の友人との対立が原動力になっている人が少なからずいるとも思いますので、そういった周囲との関係性の果てに、成功するストーリーも読んでみたい気がします。

椅子を偏愛するマイノリティの立場を堂々と受け入れる主人公たちの姿が冒頭で描かれますが、せっかくの魅力的な同級生とのエピソードをもう少し読みたかった気もします。しかし、そうなると個性の書き分けも大変ですし、エピソードを回収するには字数が多くなりますから大変ですね。

 

 

また、主人公の能力が高すぎるので、椅子のアイデアについても、「ああ、頑張って考えたんだな」くらいしか印象が持てなかったので、創造する苦しみが伝わるとより共感できるかなと思いました。閃くまでのプロセスがほしかったなというか。しかし、それをやってしまうと、暗くなってバランスが悪くなるので、まあ、必要ないかもしれません。

 

もう一つ。好きなことを仕事にするのは大変だと本書では書いています。その通りだと思いますし、子どもたちには、将来を慎重に決めさせるために、そう言いたくなる親の気持ちもわかります。

これは本書への批判では全くないのですが、就職活動で書かされ言わされる「志望動機」は、どれだけ仕事に関することが「好きで本気」なのかが重視されたりしますよね。じゃあ、結局好きなことをどうやって仕事にするか考え続けていた方が実際に生きていくには良いのでは……と思いました。それに、プロクオリティで仕事できる人って、やっぱりその仕事が好きだと言える人かなと。いい学校行ってエリートサラリーマンや官僚になることに、リアリティを感じる子どもたちはいるのかな。かなりリアリティがなくなっていると思うのです。

 

また、これからの子どもたちが働く上で、重視することは一体なんでしょうか。想像しづらいのですが、苦労に折り合いをつけられるかどうか、そういったことではないでしょうか。だとすると、好きなことを仕事にした方が良いのではないのかなと。

 

さらにもう一つ。では、好きなこと、夢中になることを選択していくことを子どもたちに勧めたいかというと、それも少し疑問です。

僕に子どもが生まれて気づいたのは、性格や能力って結構遺伝するな、ということでした。先祖がどういう生き方をしたかったのか、どういう環境に適応してきたのか、どういう衝動を持って生命を分化させてきたのか、そういうことを考えると、自ずと自分に向いている職業や働き方はあると思います。

本書では、主人公の祖父が椅子職人なので、そういう「血」について触れられていますが、そのあたりをすっ飛ばしている小説も多いですよね。僕はむしろ先祖がどういうことをしてきたか、主人公がそこから発想する小説が読みたいですね。

 

でも子どもたちには、本書のような体験をしてほしいです。この本の中で書かれていることは、人に任せられる強さであり、人と協力しなければ生きていけない、「素晴らしい弱さ」なのです。この「素晴らしい弱さ」に気づくことは、やはり人と105度で背中合わせで支え合わないとわからないと思います。

 

最後に、夢を持った多くの人が感じるであろう気持ちを歌った、REOLの「No title」を。


[MV] REOL - No title