くもり空の形而上学

ジャパンカルチャーや茶道のこと、編集者の日常ことなど雑多に書きます

2014年 11月の読書 

11月3日 『ギャル農業』 藤田志穂 中公新書ラクレ

奥付 2009年10月10日

ギャル農業 (中公新書ラクレ)

ギャル農業 (中公新書ラクレ)

 

 

農業するまでにいたった経緯と著者の経歴、考え方が書かれている。

何かのプロジェクトを達成したということではなく、途中報告のような印象。

シブヤ米というものを作るよ!というところで終わっているのが残念。

(3年で終わる計画だったようで2012年には一区切りしている模様)

また、農業の難しさや、観察を通して発見したことなどの記述が少ないのも残念。

『奇跡のリンゴ』のようなものを期待するとはずれる。

著者の会社が農業ではなく、企画やギャルマーケットの調査が主力だから仕方ないのだろうか。

農業にせよイベントにせよ、続けて盛り上げていくことこそが大切だと思う。

どう続けるのか、今後に期待できるのだろうか。

忙しい人だろうから、このような本になったのだろうが、後半の文章の寄せ集めなども含めて、話題便乗で売り上げを立てようという編集方針が見えた気がして少し寂しくなった。

ただ、言っていることには実感がこもっており、悪くない。

 

 

 

 

11月4日 『これが自殺防止活動だ…!』 NPO法人心に響く文集・編集局 茂幸雄 太陽出版 

 奥付 2014年 5月20日

 自殺の名所がもつ社会的な機能を過小評価していた。

自殺する人は疲れて追いつめられ、死ぬことへつよく駆り立てられていると同時に、本当は死にたくなくて、死ぬためのきっかけを確かめ、探しているのだという印象を持った。きっかけの一つとして自殺の名所があるのではないか。それがもつ社会的な影響力は少なくないだろう。

正直、名所で自殺をするなんて目立つことをする人がいるのかと思っていたが、目立つからこそ誰かに止めてもらえることを期待し、また止めてもらえなかったからこそ、自殺する必然性を感じて死ぬのだと感じた。本書はたくさんの人が紹介され、ひとつひとつは短いものの、壮絶だ。

本としては、自殺者の紹介と、活動の紹介が二つの柱。講演記録が中心になっていることもあり、すこしまとまらない印象。行政に対する批判と自殺者への観察をもう少し掘り下げて欲しく感じたが、それはまた別の人の仕事かもしれない。

 

 

 

 

 

11月5日 『にぎわいの場 富山グランドプラザ』 山下裕子 学芸出版

奥付 2013年10月1日

にぎわいの場 富山グランドプラザ: 稼働率100%の公共空間のつくり方
 

 富山出身ということもあり、興味深く読んだ。

帯に行政と民間がどうすれば協同し実践を上げられるか、見事に実践していて奇跡であるということが書かれている。

富山が昔よりも廃れて見える気がしたので、どう活気づけていくかとても気になっていた。

グランドプラザという広場があり、そこの利用率を高めるための工夫がいろいろ書かれている。ガラス張りの天井にして開放感を出し、日光を取り込んだことや、文字を使って禁則事項などを書いたりはしないことなど。それだけでなく、設計から運営まで、民間が主役になりながらも、行政の力を借り、綿密に連絡を取って衝突を乗り越えていっているのはとても生産的で気持ちがよい。

広場と言えばミラノか富山ということを裏のスローガンにして取り組んでいるという。ミラノはそんなにいいところなのだろうか。

本書の紹介により、広場が出会いの場になったり、いろいろな機能を有しているのがよくわかった。

確かに富山に限らず、田舎の人は外に出ないと思う。外に出たとしても、ほとんどが車を使い、車というある意味「家の中」にいるのだから、外に出ていることにはならない気がする。富山を散歩しても人はほとんどおらず、家はしんとしていて誰もが引きこもっているような印象を受ける。悪く言い過ぎだけど。田舎で誰も外を歩かなくなり、人の姿がなくなることで余計外に出たくなくなるのかなと思った。

そういった意味では、外に出る目的やきっかけを与える空間を作った意義は大きいと思う。それだけでなく、目的を持ってその場所に行ったとしても、目的を果たした後、イベントが終わった後、ゆったりと目的を持たない時間の使い方が出来るよう工夫されているのはとてもいい。

グランドプラザを単に作るだけでは駄目で、また単にイベントを行って盛り上げるためだけでは不十分で、人の姿をそこに常にあるようにする何かが工夫されているのがポイントかもしれないと感じた。

まじめな富山県人相手に成功させているように思われるので、なかなか凄いことだと思う。何かのロールモデルになるかもしれない。また、かつて商店街などでつながりがつよい社会があったのだとしたら、グランドプラザの開放性こそがつながりのために今必要なのかもしれない。あるいは、そのヒントの1つかもしれない。

引きこもっているのはこじらせた人だけでなく、車社会になった田舎全体そのものかもしれない。乱暴な意見だけど。

どう解放し人の姿であふれさせるか。都会では問題にならない。車のみの場所が問題かもしれない。そう思った。

 

 

 

 

11月6日 『パンダ飼育係』 阿部展子 角川書店

奥付 2013年 6月30日

パンダ飼育係 (単行本)

パンダ飼育係 (単行本)

 

 古本屋で安かったので何となく買った。こういうすぐに読める本を常備しておきたいという習性もある。若者の働く姿と別の職業への関心があったことと、『裸でも生きる』のような本作りを期待して読んだ。

とはいえ、本作りの面ではやや期待はずれ。ドラマチックに書けるはずだったであろうが、全体として淡白な印象にまとまっている。くやしかった思いをもっと大胆に語ってもらっても良いだろうし、わかりやすい苦労話がもっと最初からバンバン出てきてもこの手の本作りとしてはある程度正解だっただろう。また、パンダの生体に関してより詳しく教えてほしかったし、そのためにも理系の知識をもっと蓄積してほしいと感じた。

ただ、本書の想定読者が気に入るであろうパンダの可愛さはとても共感できたし、著者の素直さや、仕事にとりくむ姿勢には好感が持てた。

 

11月14日 『危機の宰相』 沢木耕太郎 文春文庫

奥付 2008年11月10日

危機の宰相 (文春文庫)

危機の宰相 (文春文庫)

 

 しばらくあれやこれやとして読書が減っていた。

現在、景気が良かった頃を思い出し、強い日本を取り戻そうと考える機会が、誰彼問わずあるだろうが、その時には、「所得倍増計画」の本質についてそもそも把握しておかなければ話にならないだろうと思い、その切り口としてこの本を読んだ。

非常に面白く、正解だったように感じる。

まず、所得倍増というキャッチフレーズがそれほど簡単に出てきたものではないことがよくわかった。また、これからの政治の方向性を決める上で、非常に均衡が危うい状況下での一撃であったこともよくわかった。

 池田勇人について詳細に書かれているのも、当時を知らない人間としては助かる。

詳細な内容は多岐に渡るので触れずにおくが、全体として感じたのは、「所得倍増計画」の時代背景として、「安い労働力や技術の革新を武器に、増加する若者が消費を拡大し、経済成長力が急上昇する」という国の青年期について、まだ世界史的に未経験であったのだろうということだ。

人口論から経済を読んでみたいと思った。

 

 

 

 11月16日 『アトミック・ボックス』 池澤夏樹 毎日新聞社

奥付 2014年2月10日

アトミック・ボックス

アトミック・ボックス

 

 こつこつ楽しみに読んでいた。小説としても細かなところまでかけていてまあまあ面白い。ただ、想像力というか、発想は古いように感じる。現在進行形の原発の問題も射程に入っているんだけれど。

前半は登場人物のアクションがよくわかって引き込まれるものの、後半からになると少しダレてきて逃避行を読むのがつらくなってくる。どうせ大丈夫でしょうという安心感があるからかもしれない。

 

 

 

11月20日 『装丁道場』 グラフィック社

 奥付 2010年7月15日 

装丁道場―28人がデザインする『吾輩は猫である』

装丁道場―28人がデザインする『吾輩は猫である』

 

 新しい装丁家を発掘したくて図書館で借りて読んだ。全体的に装丁が良かった。資材も詳しく載っているのでこの本は買い。古本で安く買えないか探しておく。本書に登場する装丁家のもとで修行した若手にお願いしたいと思った。装丁に関する本はちょこちょこ読んでおく。

 

 

 

 

11月21日 『なぜ「美少女図鑑」は7日で街から消えるのか?』 

なぜ「美少女図鑑」は7日で街から消えるのか?

なぜ「美少女図鑑」は7日で街から消えるのか?

 

 なんとなく店頭で気になるけど、ふと忘れてしまう本は結構あると思う。この本もその1冊。図書館で見つけて借りて読んだ。

さらっと読むことが出来て、それなりに面白い。しかし、PHPらしい本作りという感じで、自己啓発的なテイストが少し鼻についた。

地域の活性化のために地域だからこそできる活動をしようというのは、なかなか立派。しかも、そのためにも地元にいる美少女を主人公にしようという発想はなかなか面白い。単なる美女写真集ではなく、あくまでも女性向けのファッション冊子として、スタイリストやカメラマンが広告もかねてボランティア的にやっているのは戦略的だと思う。

 

 

 

その他、別の記事として取り上げたい読んだ本

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)

 

 最高に面白かった。ドゥルーズスピノザの研究者としての評価については脇に置くが、ストーリー構成力、著者の主張を伴う思考力は素晴らしい。

 

 

 文章力がある。ただ、町内会長やってみたけど質問ある? といった感じのスレに書かれているような内容。

 

 

〈つながる/つながらない〉の社会学-個人化する時代のコミュニティのかたち

〈つながる/つながらない〉の社会学-個人化する時代のコミュニティのかたち

 

 論文集にありがちな薄い内容ではなく、興味深く読めた。

 

 

 いろいろ平行して読んでいるが今月は少なかった。12月はもっと読もう。せめて2日に1冊くらいは。