【読書感想】 大気を変える錬金術 【理系】
こんばんは。吹雪です。
タイトルになっている『大気を変える錬金術 ハーバー、ボッシュと化学の世紀』を読みました。
3分の2くらいは文章の構成がよく出来ていて非常に面白く読めたのですが、後半、ナチスの時代にハーバーとボッシュがどのように生きたかの話になるとどうもだれた感じがしました。
とはいえ、とても面白く読めたこの本、まず問題設定・舞台設定が素晴らしい。
最初の方で、1900年より少し前のイギリスの学者のサロンに焦点が当てられます。暑苦しく退屈している人々の映画を見ているような情景描写。だれた雰囲気の中、通常はつまらない挨拶でお茶を濁される会のはじまりが、食料危機をつげるというショッキングなスピーチで始まります。この時の挨拶はちょっとしたセンセーションになったようです。
ヨーロッパ人よりも、東洋人の方が農耕技術に長けている。ヨーロッパ人は収穫量を増やすためにいろんなものを畑にまいて台無しにしているだけでなく、成長を促進するのに何がよいかいまいちよくわかっていない。東洋人は糞が肥料になることを理解し、汲取技術も含めて高度な発達をしている。
しかし、その東洋の技術が耕作可能な土地のすべてに最大級の完成度を持って広まったとしても、地上の人間を40億人程度しか養えない。
この食料危機を解決する方法はただひとつ、人工的に無尽蔵に化学肥料を手にすることだ。このような内容です。
それから肥料の歴史が記述されます。グアノという鳥の糞が地層状に堆積した、天然の最高の肥料の発見と乱開発と枯渇、硝石の発見と戦争、そして大気から固定窒素を作り出す技術の確立とそれが火薬の増産につながり、また石炭からガソリンを精製する技術につながり、ふたつの世界大戦を長引かせる原因となったことなど、記述は多岐に渡り、またドラマチックで読んでいて飽きません。
特に窒素は生物の体の構成にきわめて必要な要素であるにもかかわらず、固定窒素の形でないと全く活用不能であり、しかも固定窒素を作る方法は二つしかなく、無限にあるかのようにさえ思えるのに、全く手が出ないという記述がとても印象的でした。
この二つの生成方法も鮮烈なイメージです。
ひとつは落雷による生成。
もうひとつは、小豆などのマメ科の植物の根元にいるバクテリアだけが固定窒素をつくることができるということ。
どちらも非常に気が遠くなります。窒素生成の難解さを熟知していた化学者たちは手探りで窒素を固定する方法を探っていき、高圧高温下で水素と窒素からアンモニアを生成する方法を発見し、多くの苦難を乗り越えて巨大な機械化に成功します。
こういった読み応えのある理系の翻訳本を手がけてみたいですね。
簡単な感想ですが、ひとまずここまで。
おやすみなさい。吹雪でした。